本研究は、わが国におけるいわゆる素因競合論につき、ドイツ法との対比において再構成を目的とするものである。前年度においては、素因による損害の帰責とその限界を考察し、「最低限の抵抗力」による責任の限定という方向性が示唆された。しかし、上記の責任限定基準をもってしても、解決の柔軟性を欠くという問題が残されたところであった。そこで、本年度は、賠償額での調整に視点を移し、素因と賠償額減額法理との関係を検討した。その結果得られた新たな知見は以下の2点である。1)ドイツ法においては、素因の損害に対する影響を証明度の程度に応じて逸失利益算定において割合的に賠償額を控除しうるとする法理が認められており、本研究にとって示唆的であった。しかしながら、同法理には理論的問題があるとの批判も多く、同法理に代わる減責法理として、共働過責法理の適用による減責が見直されている。2)ドイツ法においては、古くから共働過責の適用による素因の考慮が認められていたところ、近時の柔軟な解決の要請に対応して、被害者の過責の客観化の方向が進んでおり、素因競合の問題もその流れに位置づけられる。そこでは、「法益に対する無関心さ」を過責と評価することにより実質的に素因が考慮されることが示唆された。また、以上の2点につき、ドイツ(マックスプランク研究所@ハンブルク)に赴き、資料調査を行うと共に、現地研究者と意見を交わした。以上の知見を基に、本研究を一編の論文にまとめ、「最低限の抵抗力」、「法益に対する無関心さ」をキーワードとして、損害賠償法における素因の位置付けを再検討するとともに、素因競合論の新たなフレームワークを提言した。同論文は、博士論文として提出し、学位を得ている。なお、本研究は、公表には至っていないが、次年度において前記論文を公表し、成果の公表とする予定である。
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