わが国の不法行為法では、被害者の有する身体的・精神的脆弱性といった「素因」が加害行為と競合して一個の損害を発生・拡大させた場合、過失相殺規定を類推適用することにより賠償額を減額しうるとする法理が、判例・学説上認められている。本研究は、ドイツ法における素因不考慮の判例法理の再検討を踏まえ、上記法理を見直し、損害賠償法全体における素因の位置づけ及び素因斟酌の可否を再検討した。これにより本研究においては、被害者自身の「最低限の抵抗力」、「法益に対する無関心」をメルクマールとして素因競合論を再構成し、過失相殺規定の類推適用に代わる法理論を提言した。
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