権利者が多く効率的な権利処理が困難と言われている実演と、多くのコンテンツに二次利用されるレコードについては、どのように法制度を設計すれば、著作隣接権者の伝達行為に対するインセンティブを損なうことなく、円滑な利用が図られるかが喫緊の課題となっている。 この課題の解決には実演家とレコード製作者の現代的意義とその役割について再考する必要があると考え、本年度は、近年のレコード売上げの減少とデジタル技術・ネットワーク技術の急速な発展がレコード産業にどのような影響を与え、その結果、音楽産業における実演家とレコード製作者の役割がどのように変化したかについて、音楽業界のクリエーターにインタビューを実施し、調査・分析を行い、実演家とレコード製作者の意義とその役割について再検討を行った(その成果は論文「音楽市場の低迷がもたらす音楽制作への影響」として2011年春発行予定の単行本『変貌するコンテンツ産業」(ミネルヴァ書房)にて公表される)。 海外調査では、著作権関係のワークショップや国際会議に参加し、関連する課題についての資料収集と意見交換を行った。特に、これまでの本研究による示唆から、本年度はより幅広いアプローチによってこの問題を考察する必要性を感じたため、フランスのストラスブールで開催された第12回EIPIN(欧州知的財産機構ネットワーク)の国際会議に出席し、著作隣接権制度の将来の仕組みを検討する上で多角的な考察方法についての資料を収集するとともに、さまざまな角度から有益な知見を得た。また、イギリスのロンドン大学や音楽出版社協会を訪問し、研究者や実務家にヒアリングを行い、貴重な示唆を受けた。
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