本年度は、経済活動としての性質が低く国家の役割が高いと考えられている分野(主に、ヘルスケア、年金基金等の社会福祉に関連する事業活動。これらは伝統的に競争法の適用対象ではないと考えられてきたが、EUでは競争法の事例がみられるようになった。)に焦点をあて、判例・立法を通じて具体的に国家の役割の縮減と市場メカニズムの導入の程度を明らかにすることを目的とする【第1段階:セクター別の実証研究】について、昨年度に資料分析や海外調査によって明らかにした成果を踏まえつつ、引き続き、追加的な資料収集とそれらの分析をした。 また、【第2段階:理論研究】として、とりわけ、Franz Scharpfが指摘するように、自由化の進展および公益事業へのEC競争法の強力な適用を通じて実現した市場の役割の拡大を契機に、加盟国の政策の余地が縮減しているともみられる実情を検討の対象としながら、(1)国家と市場の役割の変容により生じる規範的問題を明らかにし、(2)効率性を追求し、市場化がすすめられたことによって市民社会もたらされた影響について理論的考察を加えるという作業を行った。 以上の検討に基づく【第3段階:総括】として、研究成果としての論文執筆を開始した。第2段階でえられた各論を総括することにより、公益事業にかかわる規範的課題と解決策を立体的に描きだすことを目的として論文を執筆している状況である。平成23年度上期中に成果を論文として公表し、また、口頭での研究報告の機会をもつことを予定している。
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