平成21年度は、理論研究と経験分析に関して、以下の作業を行った。まず、第一の理論的課題である「政治学におけるメタアプローチの可能性」に関して、政治学における批判的実在論の理論展開を批判的に検討し、構造と主体の相互作用におけるアイデアの二つの役割(構成的と戦略的)に注目する「構成・戦略論的アプローチ」の特徴を明確にし、経験分析に適応するために精緻化した上で、このアプローチの政治学上の意義を検討した(この成果については、2009年度日本政治学会研究大会において学会報告を行った)。そして、第二の理論的課題である「新たな比較福祉国家論の展開」に関して、多様な発展パターンを示す福祉国家再編プロセスを分析するための分析枠組として、制度変化における目標設定と支持調達という政治的ダイナミズムを考慮した、制度変化におけるアイデアの二つの役割に注目した理論モデルを提示した(この成果については、小野耕二(編著)『構成主義的政治理論と比較政治』に所収)。経験分析への適応という課題に関して、本格的な実証分析を行うために、オーストラリア国立図書館、オーストラリア国立大学、シドニー大学、ニュー・サウスウェールズ大学などを訪問し、一次資料および最新の研究業績の収集を行い、それらを読み進めた。また、これまで入手していた文献および資料をもとに、オーストラリア型福祉国家の再編分析を行う上での論点と理論的課題を明らかにした(この成果については、『新世代法政策学研究』6号に掲載予定)。そして、この三つの課題からなる研究全体の構想に関して、北大政治研究会で研究報告を行い、今後の研究の方向性と課題について検討した。
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