最終年度である平成22年度は、前年度に収集した文献および一次資料を読み進める一方で、これまでの研究成果をまとめ、公開することに重点を置いた。まず、理論研究として、アイデアを媒介とした構造と主体の相互作用に注目する「構成・戦略論的アプローチ」に基づく、福祉国家再編分析のための理論枠組を提示した。前年度までに提出した新たな段階論および類型論に加え、本年度は新たな動態論を提示した(『北大法学論集』に掲載予定)。実証分析への適用による理論枠組の刷新という課題は残されているが、これらの作業によって、本研究の理論部分は概ね目標を達成したことになる。経験分析への適応として、まず、実証分析を進める上で、前年度に集めた文献および一次資料で不足するものを補うために、現地調査を行った。そして、現地調査によって得られた資料をもとに、オーストラリアにおける福祉国家再編プロセスの分析を行い、その特徴を明らかにした(『福祉レジームの収斂と分岐』(仮題、ミネルヴァ書房)という論文集に掲載予定)。また、オーストラリアと類似した福祉国家システムを形成・発展させてきたが、その後の再編プロセスで異なる経路をたどったニュージーランドとの比較を行い、理論枠組の妥当性を検討した(日本政治学会研究大会における研究報告)。これらの作業によって、アクター間の政治的対抗関係に注目した、より詳細なプロセス分析の必要性が明らかになる一方で、オーストラリアにおける福祉国家再編の特質を明らかにするという経験分析の課題に関しても、一定の成果を収めたことになる。以上のように、理論研究および経験分析に関して、一定の成果を収める一方で、残された課題も明らかとなった。今後は、残された課題に引き続き取り組んでいく一方で、分析対象を時間的・空間的に広げることによって、さらなる研究の発展を目指していきたい。
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