平成21年度は、1.翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)における社会学的アプローチに依拠する先行研究をまとめる作業、2.このアプローチの前提となる社会学や文化論の基礎文献の精読、3.22年度に成果をまとめることを目指している、明治期及び現在の日本の翻訳状況分析のための資料収集、以上の三点について研究を進めた。 1については、近年欧米で出版が相次いでいる翻訳研究と社会学を関連づける著作や論文集の入手と内容検証、および翻訳研究の学会・シンポジウムへの参加を通じて、先行研究と現在の研究動向をまとめているところである。最近の傾向として、翻訳と社会の関係性に着目する視点が以前より多く見られていることを確認したが、現在のところはまだ散発的な考察にとどまっている側面や、日本の状況には先行研究と同じような応用方法が適切ではない部分が認められた。アプローチの体系化を今後も進めていく予定である。 2について、国際学会での発表の際、自分が想定していたブルデューの基礎的枠組み以外にも、ブルーノ・ラトゥールの枠組みの有効性について詳細な助言を得ることができ、新たにその観点も含めた基礎的枠組みの理解を目指しているところである。日本においてラトゥールの理論を人文系の研究対象に応用した例は多くはなく、その意味でもこの助言を元に研究を進められることは大きな進歩になると予想される。 3に関しては、国立国会図書館所蔵の資料をはじめ、いくつかの貴重な資料を入手できた。
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