研究概要 |
本研究の目的は,より効果的な裁判員教育のあり方を議論する上での,基盤となる知見を提供することである。平成21年度は,裁判と関連する基本的な知識(裁判知識と呼ぶ。刑事訴訟法に関する法知識や,目撃証言の信頼性に関する心理学知識が含まれる)を,知識の正確さの側面と,知識の受容の側面(納得できるか)とに分けて捉え直すことを試みた。 大学生42人を対象に質問紙調査を行い,"理解度の低い"裁判知識と"受容(納得)することが困難な"裁判知識をそれぞれ抽出した。すなわち,12項目の法知識と11項目の心理学知識を提示し,それぞれの知識に対して正誤判断を求め,その判断に対する確信の強さ(5件法)を尋ねた。その上で,それらの知識についてどの程度受容することができるか(納得できるか)について回答するよう求めた(5件法)。各知識を正しく理解できていた参加者の割合(正答率)と,正答であった参加者のうち,その知見に納得し受容することができると回答した者の割合(納得率)は,以下のとおりであった(一部のみ掲載)。 1.法知識:「推定無罪原則」(正答率52%,納得率59%),「黙秘権」(正答率79%,納得率75%),「自由心証主義」(正答率29%,納得率83%),「起訴状の理解」(正答率22%,納得率56%),「立証責任」(正答率40%。納得率53%)。 2.心理学知識:「凶器注目効果」(正答率37%,納得率73%),「記憶の正確性と確信度の関係」(確信度が高いからといって記憶が正確であるとは限らない)(正答率66%,納得率81%),事後情報効果(正答率66%,納得率85%)。 以上から,裁判知識を理解することと,納得することは,異なる事象であることが示唆される。より効果的な裁判員教育を行うには,裁判知識を理解と納得の側面とに分けて捉え直す必要があると考えられた。
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