研究概要 |
【研究の目的】本研究の目的は,教育心理学的な観点から,より効果的な裁判員教育のあり方を示すことにあった。裁判員教育を行ううえで,裁判と関連する基本的な知識(裁判知識と呼ぶ。刑事訴訟法に関連する法学的知識と目撃証言研究に関連する心理学的知識から成る)のうち市民感覚と隔たりが大きいものについては,字義的には理解できるものの,受容することが困難(納得できない)という場合がある。そこで,本研究では,(1)裁判知識を知識の正確さの側面と,知識の受容の側面(納得できるか)とに分けて捉え直し,(2)裁判知識の理解および受容を促すレクチャー方法を提案する。そのうえで(3)(2)で提案したレクチャーを実施することにより,裁判員裁判における評議内容の妥当性が高まるかについて検討する。 【調査および実験】上記(1)については,質問紙調査を行い,正確さと受容の程度が低い法学的知識および心理学的知識を各5項目抽出した。上記(2)については,(1)で抽出した裁判知識の正確さと受容を高めるレクチャー方法を提案する目的で,実験1を行った。その結果,次の2点が明らかになった。第1に裁判知識の正確さと受容の程度は必ずしも対応しないこと,第2にレクチャーを複数回実施すること,具体的な裁判事例を提示することが,市民の裁判知識の正確さや知識の受容の程度に影響を及ぼすことが示された。上記(3)については,(2)の結果をふまえ,裁判知識のレクチャー(目撃証言が原因で冤罪となった事例の提示を含む)を事前に実施することが,裁判員裁判の評議内容にどのような影響を及ぼすかを明らかにする目的で,模擬裁判実験(実験2)を行った。その結果,レクチャーを行うことで,評議過程を経て有罪無罪判断を下す際に,特定の裁判知識を考慮する程度が,有意に増すことが示された。 以上,事前に行うレクチャー方法によっては,裁判員裁判での判断の妥当性に影響を及ぼすことが示された。
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