本研究は、日本における非正規滞在者とその家族の人権保障問題について、国際人権諸条約の国内的実施という観点と比較法的観点から究明し、具体的な解決策を提示することを目的としている。そのため、平成21年度を通して以下の研究を行った。 (1)近年の日本における非正規滞在家族の退去強制令書発布処分等取消事件の判決分析を行った。その結果、退去強制に際して、「家族統合の権利」および「子の最善の利益」といった非正規滞在家族の人権問題を明らかにし、彼らの人権保障としての正規化の可能性を検討した。 (2)上記の論点と関連して、少子高齢社会である日本において、非正規滞在者とその家族を含む定住外国人を将来の国民として法的統合をはかる視点に着目して、定住国と関連が深い定住外国人家族の国籍取得についてドイツの場合と比較検討した(「11.研究発表」を参照)。 (3)日本での不正規滞在者の現状に対する理解を深めるために、セミナーや関連団体の活動等に積極的に参加して生情報と最新議論の収集に努めた。そして、上記の研究を踏まえて、不正規滞在者の類型別に抱える人権保障問題と法的地位について分析しているところである。 (4)EU諸国における退去強制事件をけじめとする非正規滞在者の人権保障については、ヨーロッパ人権裁判所の判決分析に着手し、国内外の文献収集を行った。特に、マックス・プランク外国および国際社会法研究所(ミュンヘン)の客員研究員として、「EUにおける不正規滞在者の法的地位と権利保障」について資料収集を行った。そのうえ、研究会を開き、本研究所の元所長および研究員等から示唆を受け、意見交換を行った。 上記の調査研究は、次年度の文献研究および事例分析等を通して行う、国際人権法の国内実施に関する具体的な解決策を検討するための基礎的な作業として重要であると認識している。
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