平成22年度は、前年度に行った日本における非正規滞在家族の退去強制令書発付処分等取消事件の判決分析を中心とした成果を踏まえて、以下の研究を行った。 (1)EU先進諸国における非正規滞在者の人権保障について、ヨーロッパ人権裁判所による非正規滞在者の退去強制事件に関する判決および関連資料を収集し、分析を行った。 (2)上記のヨーロッパ人権裁判所の判決と日本の判決について、特に子どもの権利保障に焦点を当てて比較検討を行った。その結果、非正規滞在の子どもに対する権利の保障ないし子の最善の利益の保護は必要であるという点では一致していると言える。しかし、両者の判決には、類似の事件に対して異なる判決結果を導いているものがあることが明らかになった。 (3)このため、異なる判決結果を導いた原因の究明を進めるべく、判断の要素や基準の違い、および根底にある考え方の違い等に注目して検討を行った。また、日本の判決については、国内法の影響が大きいため、入管法や国籍法といった国内法の歴史的変遷をたどる作業をも行った。 (4)日本における非正規滞在者とその家族の退去強制に係る人権保障問題について、ヨーロッパ人権裁判所による判決の分析から得た示唆を踏まえて、国際人権諸条約の国内的実施のための法解釈、およびそのための政策的な解決策の検討を行い、議論を展開しているところである。 (5)本研究は、グローバル社会における世界共通の人権問題、すなわち、非正規滞在者とその家族の人権保障問題に対する一つの法的解決策を提示するものとして意義があり、そのための上記の各段階における緻密な作業は重要であると考える。現在、最終的な研究結果について、一つの学術論文としてまとめている最中である。今後、その研究成果を国内外の学会等で公表することにより、広く国際社会に広く還元させるとともに、今後の学界の研究発展に貢献したい。
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