本研究は、抗うつ薬の臨床試験を事例として、医薬品規制に関する政府・企業・専門職団体の相互作用を明らかにすることを通じて、新たな医薬品規制システムのモデル構築を行うことを目的とするものである。今年度は、前年度の研究成果を踏まえ、1)日本において論争となった抗うつ薬の臨床試験の詳細な事例分析、2)臨床試験・臨床研究に関する国内外の規制システムの現状のレビュー、3)患者参加の契機を組み込んだ医薬品規制システムの構築、の3点から研究を進めた。 1)については、前年度の調査研究を踏まえ、(1)プラセボ対照の妥当性、(2)試験デザインの問題、(3)日本の医薬品規制をめぐる社会的文脈、の3点から日本の事例を分析した。その結果、今回の事例においては、(1)の点は許容されるが、(2)の点で問題があり、(3)を考慮しても今回の事例は倫理的に正当化し得ない、との結論に至った。以上の研究成果は国際学会において報告を行い、今後学術論文として公刊する予定である。2)については、医薬品規制に関する日本の現状をレビューし、研究と診療の区別の曖昧さ、包括的な被験者保護制度の欠如、という2点の問題点を指摘し、学術論文として公刊した。3)に関しては、医薬品規制について深い見識を持つ患者団体代表、医療者、行政官、医療社会学者を招聘してシンポジウム(「臨床試験への患者参画」)を開催し、討議の結果、医薬品開発の段階からの患者参加の必要性が明らかになった。 以上から、本研究においては、抗うつ薬の臨床試験を事例として、(1)試験デザインを中心とする臨床試験の倫理的問題への対処、(2)日本の臨床試験規制システムの課題、(3)臨床試験への患者参加の促進、という3つの点において、新たな医薬品規制システム構築のための有用な手がかりをえることができた。
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