前年度に引き続き元国鉄職員に対する聞き取り調査を行なった。また、それと同時に、当時の貨物に関する再建計画の立案に関与していた職員から、計画策定段階の資料やバックデータなど貴重な一次資料を入手することができた。2010年度は、聞き取り調査で得られた証言や、内部資料を用いて、国鉄財政再建計画が組織内外のどのようなプロセスを経て策定されていたのか、その策定プロセスがその後の国鉄の様々な意思決定にどのような影響を及ぼしたのかを分析した。まだ全容は解明できていないか、現在までの分析の成果を「組織ファサードをめぐる組織内政治と誤解:国鉄財政再建計画を事例として」を発表した。本研究の研究成果は、2つある。1つめは、対象期間の国鉄に関して内部者への聞き取り調査を実施し、その証言や内部資料を用いて、国鉄財政再建計画の策定プロセスの実態を明らかにしたことである。国鉄については、交通論や交通経済学、政治学、行政学などの領域で研究が多数存在するものの、国鉄内部の実態を明らかにしているものは少ない。本研究の事例記述はその点で貢献があるものといえる。2つめは、この事例記述に基づいて、脱連結の組織プロセスを明らかにしたことである。新制度論では、特定の状況下において組織の公式的な構造と実態とが脱連結する、ということが論じられてきたけれども、それが組織内のどのようなプロセスで生じるのかについては研究の蓄積が少ない。国鉄の財政再建計画の策定プロセスについての事例記述は、この脱連結の組織プロセスを明らかにするものである。
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