研究概要 |
本研究は,日本の算数・数学の授業においていかなる数学知識が発生しているのか,その知識状態の特性を明らかにすることを目的とする。本年度は,主に,授業についての先行研究の調査,理論に関する資料の収集,データの収集・処理,仮分析を行なった。研究計画時にはDouadyのtool/object理論,教授学的状況理論をデータの分析に用いることを想定していたが,仮分析の途中で,理論をChevallardによる「教授の人間学理論(Anthropological theory of the didactic)」に変更した。この後者の理論では,教室内で表出する数学知識が教室外の条件と制約の影響を大きく受けるとし,前者の理論が考慮していない教室外の要素を考慮するモデルを提案している。日本の授業における数学知識の特徴づけをめざす本研究において「日本」に固有なものを理解するためには,教室内のみならず,教室外の要素を考慮する必要がある。そうした理由から理論を変更したのである。また,本年度収集・処理したデータの仮分析では,授業で表出した数学知識の特性を教師が教えようとする数学及び教師の指導についての知識・技能との関連から明らかにすることに努めた。具体的には,算数の授業のデータ(発話記録,子どもの活動記録,指導案等)を分析することにより,授業で見られた算数・数学的活動において扱われた数学知識が,教師のもつ様々な水準(学校の方針,指導内容の教科書での扱い,子どものアイデアに対処する方法,子どもの反応,指導内容)の知識・技能との相互作用の結果,形作られていることを示した。なお,この分析はまだ仮分析の段階ではあるが,その結果の一部は国際学会で発表した。今後は,仮分析の結果をより精緻化するとともに,新たなデータの分析を進める。
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