研究概要 |
保育者養成校では,子どもの目線に立って指導案を作成することが大切であると学生に指導することが一般的である。しかし,こうした養成教育を受けるにもかかわらず,子どもの目線に立たずに保育者主導のマニュアル型描画指導を行う保育者の存在を指摘する美術教育研究者はあとを絶たない。この保育者主導の描画指導は,見栄えの良い作品作りに焦点が当てられがちであることから,子ども一人ひとりの表現欲求の変化に対応しにくい。そうしたことから,子どもの実態にもとづく指導という視点を保育者に見失わせる可能性を持つ指導である。そこで,本研究では,インタラクションデザイン分野で一般的に用いられているペルソナ/シナリオ法(以下,P/S法)を用いて学生が見立て描画指導案を作成することで,学生の,子どもの目線に立って指導案を作成する態度,志向及び見立て描画指導力を育成することを目的とした。具体的には,保育内容(造形表現)の講義の全15回を通して,学生は仮想の幼児であるペルソナとそのペルソナが見立て描画中にどのような行動をとるかを予想したシナリオ,そして,そのペルソナとシナリオに基づいた見立て描画指導案をグループで作成した。さらに,作成した見立て描画指導案をもとに幼稚園で実践を行った。その結果,P/S法を用いて見立て描画指導案を作成し,実践した経験は,子どもの目線に立って指導案を作成する学生の態度,志向及び見立て描画指導力を向上させることが明らかになった。こうした結果は,幼児が見立て描画を描く際に生じると予想される様々なコンストラクトを,P/S法が学生に具体的かつ多角的な視点から想起させたために得られたと考えられた。そのため,このようなP/S法を用いた指導は,現在,課題として指摘されている保育者の描画指導力の向上に対して有用な示唆を提供すると考えられる。
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