今年度は貿易および借入制約と所得再分配政策の関係について、主に以下の研究を実施した。 1.貿易が年金・所得再分配政策の決定に与える影響の分析:このプロジェクトでは、貿易の開始が両国の国内所得不平等度、貿易パターン、所得再分政策に与える影響を理論的に分析することを目的とする。今年度は、2国静学ヘクシャー=オーリンモデルに、投票によって資本課税率及び公共財供給量を決定するという設定を導入した分析を行った。分析の結果、貿易相手国の資本量の変化は自国の資本収益率を変化させることを通じて、資本を多く持つ高所得者と資本をあまり持たない低所得者の間の所得格差を変化させ、投票によって選ばれる自国の税率及び公共財供給量を変化させることが示された。これは、グローバリゼーションが各国国内の所得再分配政策に影響することを意味する。 2.借入制約の存在が国債発行額の決定に与える影響の分析:このプロジェクトでは、OECD諸国間における公共財供給量および国債発行額の違いを、借入制約の強さという観点から説明することを目的とする。今年度は、所得に異質性がある個々人から構成される2期間モデルに借入制約を導入し、投票によって決定される国債発行額と借入制約の関係について分析を行った。分析の結果、借入制約が十分に強い時、借入制約に直面している低所得者は将来の所得を現在に移転できないため、より低い公共財供給とより低い国債発行を支持するようになり、政治経済均衡における国債発行額が低くなることが示された。更に、所得格差の拡大が国債発行額に与える影響は借入制約の強さに依存するという結論も得られた。最後に、上述の結論はOECD諸国のデータから支持されることも確認された。これは、OECD諸国間における所得不平等度と国債発行額の違いを説明する一因として、借入制約の強さが考えられることを意味する。
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