研究概要 |
今年度は借入制約の存在が所得再分配政策に与える影響について、以下の2つの研究を実施した。 (1)所得水準が異なる3つのタイプからなる2期モデルに借入制約を導入することで、借入制約の存在が再分配政策および国債発行量に与える影響を分析した。分析の結果、借入制約が十分に強い場合には、借入制約に直面した低所得者は将来の所得を借入によって現在に移転することができないため、彼らは中所得者よりも低い税率と小さいサイズの再分配政策を好むようになることが示された。更に、この場合には均衡における国債発行量及び再分配政策のサイズは効率的水準よりも低くなり、所得分布の拡大が国債発行量のGDP比率を低下させるという先行研究にはない結果が示された。この分析は、論文"Redistributive Politics and Goverment Debt in a Borrowing-constrained Economy"(大阪大学,小野哲生氏との共著)としてまとめた。 (2)所得水準が異なる3つのタイプの個人からなる世代重複モデルに借入制約を導入することで、借入制約の存在が投票によって選ばれる年金政策に与える影響を分析した。分析の結果、消費の利子率弾力性が低い場合には、借入制約に直面した低所得者の選好する年金のサイズが低下するため、老年世代と中所得の若年世代がcoalitionを組むような政治経済均衡が実現することが示された。更に、この場合には賃金格差の拡大が投票によって選ばれる年金の水準を低下させることが明らかとなった。この分析は、論文"The Political Economy of Social Security and Public Goods Provision in a Borrowing constrained Economy"(大阪大学,小野哲生氏との共著)としてまとめた。
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