本研究は医療機関を対象とした原価計算研究の知見をふまえ、医療機関の経営においてシステムとして構成される医療管理会計の構築を目指したものである。そのシステムとは予算管理システムを中心とした医療機関のマネジメント・コントロール・システムである。それが医療機関に適した管理会計であるために、本研究ではまず医療機関が抱える経営課題と医療機関を取り巻く制度環境が医療機関の経営に与える影響について明らかにした。さらに医療機関の経営の特徴を指摘し、医療機関における管理会計が機能する要件を明らかにした。すなわち予算管理システムの有する機能が医療機関において発揮されるだけでなく、予算管理システムによるコミットメント形成機能と予算を通じた対話による調整機能が医療機関において企業の場合よりも重要な役割を果たすということである。これらを踏まえ予算管理システムを中心とした医療機関のマネジメント・コントロール・システムの理論的フレームワークを提供した。 さらに当該フレームワークをもとに、医療機関の予算が経営のシステムの中軸に位置するシステムをケース・スタディによって明らかにし、組織としての病院の特徴に対応させた病院の管理会計の要件を明らかにした。まず医師やコメディカルなどの専門職が中心を占めるという特徴に対して、予算を媒介とした会計数値の共有による意識づくりが病院経営において有効であった。次に部門間連携の強いという特徴について、収益(診療報酬)の再配分と部門別原価計算を経た診療科別損益の計算構造という特徴が対応した。さらに会計数値化が困難な活動という特徴に対応して会計数値評価と非会計数値評価の併用が対応する。以上のように予算システムを中軸とした医療機関のマネジメント・コントロール・システムを実際の医療機関において明らかにした。
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