本研究の目的は、算数の授業に注目し、第一に、1つの問題に対して児童が考案する複数の解法を「協調的」に吟味することによる学習促進効果を明らかにすることであった。本年度は「二者による協調的吟味」に関する調査結果を論文化し、発表した。具体的には、小学5年生を対象に、「単位量あたりの大きさ」の授業において複数の解法が提示される場面を作り、各解法について発表者が「なぜその解法で答えが出るのか」をペアで考える活動を実施することが、単一の解法について同様の説明活動を行う場合や、複数の活動について一人で説明活動を行う場合よりも高い学習成果をもたらすことを明らかにした。多様な解法の集積というクラスレベルでの協調上の利点は、それを各自の問題理解に照らして説明するというペアレベルでの協調に媒介されることで学習成果に寄与する可能性が示された。本研究の第二の目的は、このような効果が生じる認知的メカニズムを実証的に明らかにすることであり、上述の調査の際に採取した会話の音声記録等を分析した結果、一方の解法で得た説明原理を他方の解法の説明に適用することが複数解法からの学習成果と関連する可能性が示された。この成果をまとめ、国際学会における発表にエントリーし採択された。本研究の第三の目的は、1つの問題に対して児童から考案される解法のバリエーションを分類することであり、いかなるタイプの解法であれば示唆されたメカニズムにより学習促進効果が得られるかという視点から分析を行った。さらに今年度は、「多人数による協調的吟味」の検討として小学5年生の算数の授業観察のデータを分析し、その成果を学会において発表した。 以上のように、本研究は現実の教室という生態学的妥当性の高い状況において、複数解法の協調的吟味の学習促進効果とメカニズムを実証的に明らかにすることで、協調学習理論の一層の深化をもたらす意義があると考えられる。
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