本研究の目的は若年期に直面した労働市場の需給状況が各世代の出生率・婚姻率に与える影響を長期的な視点から実証的に把握することである。具体的には、日本では学卒時の労働市場の需給状況が賃金や雇用の安定度に半永久的に影響するという先行研究の成果を利用して、労働市場における一時的なショックと永続的なショックの影響を区別した。また、地域間の労働需給変動の差を利用して厳密にトレンドをコントロールし、より正確な推定を試みた。具体的にはまず、人口動態統計と国勢調査の公刊データを用いて、居住都道府県×生年で定義したコーホートの擬似パネルデータを作成して、既婚率の分析を行った。並行して、統計法第33条の適用を受けて就業構造基本調査の個票データの申請をし、そのデータを用いて、子供の年齢から出産のタイミングを逆算することで、かなり大きなサンプルサイズで出産行動の分析をすることを可能とした。 主な結果は以下の通り 1 若年期に不況を経験した世代は、結婚年齢が若干遅れる傾向がある 2 高校卒業時の不況は、大学に進学しなかった女性の出産を遅らせる傾向がある 3 逆に短大・大学卒業時の不況は女性の出産を早める効果がある 4 平均すると、景気循環と出生率の間に有意な相関は見られない、少なくとも景気後退が少子化の主因であるとする見方は支持されない。 5 ここから導かれる重要な政策的含意としては、雇用対策と少子化対策は切り離して考えるべきであるということが挙げられる。 こうした分析結果を学術論文の形にまとめて査読誌へ投稿、一部は現在審査中である。また、一般向けの講演会や雑誌のコラムなどでも紹介した。
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