研究概要 |
人間が他者との比較や競争をともないながら意志決定を行い,まなその結果として効用をえるという『社会的効用仮説』について,主に実証的なアプローチから研究を行った.既存の研究では,『幸福学』の枠組みにおいて社会的効用の推計が多く行われてきており,実際にその存在が確認されてきたが,この方法論では経済学の理論分析に応用可能な効用関数のパラメーター推計は,不可能であった.今回の研究のめざましい点は,WEB調査で大規模アンケートを行い,選択実験のサーベイデータから経済学の理論分析に応用可能なパラメーターを,直接推計した点である.得られた結論を簡単に纏めると,(i) conditional logit modelからの推計により,U=U(c,C)という社会的効用を含んだ効用関数において,自己の消費(c)に関わるパラメーターのマグニチュードは,他者の消費(C)に関わるパラメーターの約2倍である.すなわち,幸福学の分野で指摘されている『Easterlinの逆説』は成り立たない.(ii)効用関数のパラメーターの,個人属性による異質性については,(a)所得水準,(b)年齢,(c)性別の差異,の3点について有意に認められる.(iii) mixed logit modalからの推計により,社会的効用は『嫉妬』としてのみ特徴づけられるのではなく,サンプルの約3割の被験者については『利他的』な社会的効用が認められた.これらの知見を,今後の理論分析,とくに格差がある経済における厚生評価の面で役立てていきたい.
|