研究概要 |
本年度は、社会的効用を考慮した効用関数のパラメーターを、インターネットを用いた大規模・仮想選択実験をもとに推計した。主たる目的は社会的効用仮説の検証で支配的な幸福の経済学(及び,本研究と同様に補助的な分析方法と考えられる、金銭報酬つき選択実験と,神経科学実験)の手法上の問題点を克服する分析枠組みを提供することで、先行研究の推計したパラメーターを再検証、補強することにある。幸福の経済学との重要な手法上の違いは、1:批判の多い主観的幸福度のデータを用いる必要がないこと、2:被験者にとってよりリアルな状況で実験を実施することが可能であること、の2点である。2点目については、仮想選択実験においては、ライバルとなる参照群の性質や、賃金水準、さらには社会的な賃金格差といった情報が、被験者に利用可能な状況で実験可能であることが重要である。サンプルが日本の人口統計的な特徴をとらえるようにデザインされた大規模インターネット調査の結果より、平均賃金水準の上昇に対して、負の社会的効用(妬み)が平均的に観察されることを発見した。ただし、その妬みの効果は「イースターリンの逆説」を正当化するほど強いものではなく、自己の賃金上昇が効用に与えるプラスの影響に対して、ライバルの賃金上昇が効用に与える負の影響は、絶対値でその半分程度であることが示された。この結果は、国際経済労働研究所が提供する固有データを利用して、幸福の経済学の枠組みで推計したパラメーター推計の結果と同様である。この2つの研究により、日本の家計・消費者の社会効用を考慮した効用関数パラメーターの分布が明確となった。
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