本研究の目的は、東アジア新興国におけるアジア通貨危機後の通貨金融・企業改革の進展がマクロ経済バランスや金融安定に及ぼした影響を分析するとともに、今後の東アジア地域金融協力のあり方について展望を示すことにある。本年度の研究成果は、(1)アジア通貨危機後の為替レート制度の変化、(2)世界金融危機のアジア経済への影響、(3)東アジア地域金融協力の進展と課題の3つに関するものである。(1)については、タイ・韓国・マレーシア・中国を対象にFrankel and Wei(1994)のアプローチに基づき、主要通貨との連動を分析。従来のOLS推定に代えて、多変量GARCHを用い、条件付き相関係数を推定。これにより、タイ・韓国・インドネシアでは、アジア通貨危機後に米ドルとの連動が弱まり、為替レート制度の柔軟性が高まっていることを明らかにした。(2)については、タイ及び韓国を対象としたベクトル自己回帰分析によって、各需要項目への構造ショックを推定し、世界金融危機における両国の生産の落ち込みの原因を分析。これにより、輸出とそれに連動した在庫投資の減少が生産の落ち込みを主導したことを明らかにした。また、東アジア新興国において深刻な経済危機を回避できた要因として、アジア通貨危機後の通貨・金融改革の進展等によって、対外的な金融ショックに対する脆弱性が軽減されていたことがあることを示した。(3)については、チェンマイ・イニシアティブ(CMI)に焦点をあて、これまでの進展を整理するとともに、世界金融危機などを通じて明らかになった課題を明らかにした。今後の取り組みとして、(i)流動性危機への効果的な対応を可能とするCMIの機能拡充、(ii)危機予防に資する経済サーベイランスの強化が重要であり、それぞれについて具体的な方策を示した。
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