本年は、研究課題へのアプローチ法について、商事法を中心とすることを明確にし、関連する経済学分野のうちどのような手法を援用するかという、方法論を中心に検討を重ねた。本研究テーマのような法領域間の交錯・融合領域においては、研究のスタンスがまずもって重要であるからである。そのため、内定段階で脱稿していた研究ノートを手がかりとしつつ、企業買収の中心的論点のひとつである「企業価値」と、従業員の意思決定参加というプロセス的関与の2つの視点を中心に、考察を進めた。また、経済学分野については、当初は労働経済学・法と経済学からのアプローチを想定していたが、近時注目を浴びている行動経済学の援用可能性についても、研究代表者なりの検討を進めた。本年度の日本私法学会における商法パートシンポジウムは、会社法にとって計量経の実証分析が有する意義に関するものであったが、学会後、本学所属のパネリストと意見交換をするなどして、本研究における必要性・実現可能性についても検討した。 以上を総括した現時点での到達内容について、3月末に開催された関西企業法研究会において個別報告を行い、企業買収を専門的に研究している論者からも、相当程度の評価を受けた。一方で、比較法的検討に、研究代表者として若干至らない点があったことも認識した。 当初の研究目的からすると、敵対的なものに限らず友好的な買収も検討対象とし、他方で包括承継である合併を実質的に考察対象から外したことで、若干カバーする範囲に総意があるものの総論部分の検討としてはおおむね所期の目的を達成できたものと認識している。
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