研究開始当初は、総論(基礎理論)と各論部分を、敵対的M & Aに限ってサーベイすることを試みていたが、今年度は総論部分の精緻化を図るとともに、友好的企業買収に一部範囲を拡大して検討することとした。主たる研究対象は海外の類似制度であって、具体的には英国シティ・コードと、米国モンタナ州解雇制限法および各州の反企業買収立法であった。これらにつき、前者はコードの文言と運用実態の異同を中心に検討し、あわせて計量経済分析に関する論文も吟味した。後者については労働法の形成過程にかかる論文・概説書の調査、そして反企業買収立法の計量経済分析をなした相当数の論文の比較検討を通じて、その合理性を検証する作業を行った。従前の研究と比して本年度の本研究が重要である点は、(1)シティ・コード研究についてはテクスト分析とパネル関係者へのヒアリングが通常であったが、本研究では実務家ガイドを通じて理論・実務両面の検討をなした点、(2)当該制度の計量経済分析を紹介した点、(3)従前の比較制度研究では議論の方向性が不分明であったアメリカの反企業買収立法につき、計量分析の観点から統一した視点で再整理を行い、本研究と密接に関わる関係者保護条項に有意な利益が見出だせないことを明らかにした点、(4)反企業買収立法と労働法との相互関係について、文献ベースではあるが統一的な理解を試みた点、などを挙げることができる。 これらの知見をもとに、商事法上無理のない試論を勤務校紀要に随時掲載した。
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