研究概要 |
平成21年度は,実証研究に先立って広汎なレビューを行い,個人の認識論に関する従来の5つの理論的想定を時間スケールという観点から統合する多重時間スケールモデルを提唱した。このモデルは,端的に言えば,個人の認識論が仮説的な世界観(授業観)を措定するとともに,具体的な活動を繰り返し経験することを通して新たな世界観が生まれ,これが認識論の変容につながるというものである。レビューを踏まえ,個人の認識論を測定する認識的信念尺度を作成し,認識論の高校生と大学生の間での差や個人差を同定した。その結果,大学生であっても素朴な認識論を持ち続けている可能性が示唆された。これは,大学生になれば自ばと認識論が変容するのではなく,一定の教育的介入が必要であることを示している。また,多重時間スケールモデルの第一の仮説に関して検証を行った。その結果,絶対的で確固とした知識があると捉える大学生は, 授業を知識獲得の場として捉え,多くの知識が得られたことに満足感を覚えることが示された。一方,知識の適用可能性を高く見積もる大学生や知識の妥当性がそれを利用することによって確かめられると考える大学生は,同じ授業を受けていても授業をより知識構築・創造の場として捉え,単に知識を得るというよりも多様な視点を得ることに対して満足感を覚えることが示された。大学的講義を通して多様な視点を得ることを期待するならば,利用知識についての認識的信念に介入する必要性が示唆される。平成21年度の研究成果に関して,レビュー論文については投稿のでり,調査の結果は平成22年度に日本教育心理学会,日本心理学会,日本認知科学会,ICCS2010で発表予定である。
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