昨年度に引き続き、青年の日常的解離と病的解離のアセスメントと心理療法への応用について、(1)質問紙調査研究(健常群・臨床群)、(2)臨床事例研究の両側面から検討した。 (1) 舛田(2008)の健常群と比較するため、臨床群としてA病院の精神科外来・病棟患者を対象に日常的解離尺度、解離性体験尺度から構成される質問紙を実施した。H23.3月地点で、総数50名の臨床群データを得た。更に臨床群のうち、知的障害、器質性精神病、てんかんを除き、かつ解離性体験尺度(DES)を20点以上を病的解離群として抽出した。結果、13人(男性2、女性11.平均27.15歳)が分析対象となった。健常群がDES平均18.25(SD11.42)であるのに対し病的解離群は平均36.65(SD19.75)と高い値を示した。次に病的解離群を診断分類に沿って、精神病群(N=3)、気分障害群(N=3)、神経症群(N=7)の3群に分け、この3群のDES総点を比較した。3群はいずれも少数ながら、(1)精神病群は健忘傾向が高く、没頭傾向が低く、解離得点全般が高い、(2)気分障害群は、感情切替傾向が低く、没頭傾向が高い、(3)不安障害群は、健忘傾向、没頭傾向が共に高いという結果を得た。 (2) 生活史健忘患者に対し、上記質問紙とロールシャッハ・テストを行った。舛田・前田(2009)と同様に解離傾向は質問紙結果に顕著に反映されなかった。しかしバウムテスト、ロールシャハテストでは解離傾向が示唆され、それらの差異を患者にフィードバックし、共有することが心理療法へとつながる可能性が検討された(2010.日本ロールシャッハ学会発表)。更に、解離性障害患者3名の心理検査と心理療法を検討したところ、治療の動機づけには、性別、仕事の多忙さや金銭面等の現実的制約だけでなく、自分の身体に合わないという「自我違和感」がまず必須であり、その後に自己への否定的意味づけがなされることが重要ではないかという仮説が提示された(2010.精神科診断学会発表)。
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