本研究の目的は、構築主義という考え方を基盤にすることで、価値多元社会に相応しい国家・社会の形成者を育成する中学校社会科の教育課程を開発することである。そのため、今年度は、次の二点を明らかにした。 1、構築主義の社会問題研究を理論的根拠にした中学校社会科教育課程を仮説的に開発し、その成果を学会で発表した。現行の社会科は、国家の地誌や通史や制度を教授する教育課程を編成して、既存の国家や社会の現実を自明視するマジョリティの地理や歴史や社会の見方を子どもに習得させている。そこで、本研究では、構築主義の社会問題研究を理論的根拠にすることによって、人々が地誌的・通史的・制度的な社会の見方を共有して既存の国家や社会の現実を構成する論理に即して、教育内容となる社会問題を取り上げる現実構成論という中学校社会科の教育課程論を提起した。この理論に基づいて教育課程を編成すれば、中学校社会科は、既存の現実を自明視するマジョリティの見方をマイノリティの立場から相対化させ、その多様なあり方を子どもに吟味させる教育内容を構成できるため、価値多元社会に相応しい国家・社会の形成者を育成できることを明らかにした。 2、仮説的に開発した現実構成論という中学校社会科教育課程論の妥当性を部分的に検討し、その成果を発表した。本研究の理論仮説として提起した現実構成論の妥当性を検討するために、地理単元「障害者問題を考える」、歴史単元「遺跡保存問題を考える」の授業モデルを開発した。前者は既存の福祉国家の現実を根拠づける身近な地域の見方を、後者は既存の国民国家の現実を根拠づける古代史の見方を、それぞれ相対化させ、その多様なあり方を子どもに吟味させることをめざす単元である。このように、二つの授業モデルの開発を通して、現実構成論の妥当性を地理的分野と歴史的分野で検討した。
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