研究概要 |
本年度の研究成果として以下の二つの分析を進めた. 第一に,銀行恐慌・金融危機のメカニズムを明らかにするため,これまでに構築してきたリスクシェアリング外部性モデルを再検討し分析をおこなった.本年度は,個別の生産性ショックを抱える無数の小国開放経済を設定し分析した.モデルの特徴として,2つの国際的な市場がそれぞれリスクシェアリング機会を供給するリスクシェアリング外部性モデルを構築し,市場統合化(国家の統合市場への参加比率)の程度に依存して生産性ショックが内生的に決定されることを仮定し分析した.その結果,各国の代表的個人の危険回避係数に依存し,様々な均衡が生じうることを明らかにした.特に,危険回避係数が大きくなるほど,完全な市場統合は均衡として実現不可能でありセグメント化された市場が複数併存し続けることを明らかにした. 第二に,サブプライムローン危機以降に観測された一時的空売り規制の有効性を明らかにするために分析をおこなった.しかしながら,通常の合理的個人のみが存在する経済環境に置いて空売り規制の有効性を見いだすことは難しい.そこで,情報優位の投資家,情報劣位の投資家,ポジティブフィードバック投資家の三種類の経済主体が併存する経済環境のもとで分析をおこなった.得られた結論として,将来の負の情報を得た段階で空売り規制を実施することによって,異なる投資スタイルや情報格差にもとづいた富の移転を排除すること,また,情報効率性は低下するものの株価の安定化に貢献し,中・長期的な価格発見機能を併せ持つことを明らかにした.
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