平成21年度は、これまで収集したデータから、教師の職業生活というケースを設定して、個人の主観的な職業生活の経験について質的分析を行った。また、イングランドの教師プログについてもデータを収集する予定であった。しかし、そのデータと分析との往復の中で、研究計画に柔軟性を持たせる必要が出てきた。計画では日本の教師プログとイングランドのそれを分析し、その比較の中でケーススタディの分析を行なう予定であったが、イングランドの教師プログは2点の理由から研究に含めないことにした。第一に、研究のデータとして十分な量のプログを読むにはかなりの時間がかかり、与えられた研究期間内でデータ収集と、その分析を行うことは現状から判断して無理があることである。第二に、インターネットから収集するデータから、「日本」のプログ、「イングランド」のプログという具合に特定の人口・集団を設定することは、文脈の発見を目的とする本研究のケーススタディの方法上大いに問題があるという理由である。後者の理由は、本研究を展開する大事な気付きとなり、教師ブログの質的データ収集と分析を可能にする理論的概念を明確にする必要が出てきた。具体的には、個人の主観的な文章が「主体化」され「ブログ」「ブロガー」が出現する過程と、その過程と学校の変容との関連を分析するする概念・視点を検討した。 具体的な研究活動としては、5月には教育社会学の国際会議で、教師ブログという文化現象から、制度理論を用いた教育改革研究を批判的に再検討する内容の報告を行った。9月には、教師ブログの内容の多様性を考察した論文が、図書の一章として公刊された。また、12月には、平成22年度に予定している学会発表のアブストラクトの提出と、今年度に行なった分析の一部を論じた論文の投稿準備を行なった。
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