本研究期間中の平成21年度にデジタル化を完了した史資料をもとに、コンテンツ文化史学会2010年大会「拡大するコンテンツ」にて報告を行い、論文「新聞記者時代の久留島武彦と子ども向けジャーナル-中央新聞『ホーム』のデジタル化保存と分析を中心に-」(『共立女子大学文芸学部紀要』第57集)を発表した。本研究は、近代日本における子ども向け文化事業が企業インフラ整備とパラレルに展開していく過程を、久留島武彦という児童文化者のメディア実践者としての活動を基軸に詳察することで、検討し枠組みを提示しようとする試みであった。今回、研究プロジェクトの主眼であった『ホーム』のデジタル化はすべて終了し、資料目次等のデータ化も完了した。内容分析についても一定の検討は終え、のちに少年少女雑誌を代表する挿絵画家や作家、エディターらがほぼ同時期に『ホーム』紙上に集っていたことが確認された。また、ホーム=家庭という概念が日本社会に輸入されてくるなかで、子どもに対する社会的な関心が増加し補強されていくことになるが、家庭・学校・企業それぞれを取り持つ様々なコミュニティが胎動し、子ども文化の黎明期を下支えしていたことが明らかになった。今回の研究を通じて得た知見をもとに今後は、近代日本における子ども向け文化事業が、児童文化者らのグループのみならず、百貨店やメディア企業における重層的な人的コミュニティが存在し、彼らのネットワークや出版物、催事によって、家庭と社会、家庭と学校、社会と学校それぞれを直接ないし間接的に媒介していったという主張を実証していきたいと考えている。そして戦前・戦後の出版社や放送局における子ども向け文化事業を含む、より通史的な考察を進め公刊していくつもりである。それと平行して、史資料のデジタル化についても引き続き継続して行う予定であり、データベースの公開などにもつなげていきたいと考えている。
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