1歳齢頃の幼児はまだ十分に言葉を発することができないが、指さしによって養育者とコミュニケーションを行うことができる。こういった1歳齢頃の指さしは、後の幼児の言語発達と関連している。この理由の1つとして、幼児が指さしによって周囲の養育者から言語的な応答を引き出し、養育者から言語を習得する上で有利な言語環境を作り出すためであることが考えられる。もしこの仮説が正しいならば、養育者との間で豊かな言語環境を築いている乳幼児は、指さしを行わなくとも言語的な応答を得られるため、乏しい言語環境を築いている幼児と比較して指さしの頻度が小さいと予測される。これを検証するため、親との間で言語環境を0から作り出す第1子の幼児と、年上のきょうだいの作り上げた言語環境を利用できる第2子以降の幼児とで、指さしの発達に違いが生じるかを検討した。158人の幼児の親に対して配布された質問紙のデータを解析した結果、18ヵ月齢以上の幼児の「叙述の指さし」の頻度は、年上のきょうだいのいない場合と比較して、いる場合に低くなることが明らかとなった。 年上のきょうだいのいる幼児は、養育者が幼児自身に対して直接話しかけるときだけでなく、養育者が年上のきょうだいに対して話しかけている場合にも養育者からの発話を耳にすることが出来る。本研究の結果は、年上のきょうだいがいる場合、幼児が指さしを行って養育者から言語的な応答を引き出さずとも言語を習得する上で十分な量の養育者の発話を聞くことができるため、指さしの頻度を下げていると解釈できた。 本研究は、年上のきょうだいの存在が乳幼児の指さしの発達に影響を与えることを世界で初めて示した研究である。この研究成果は、乳幼児が自身の言語獲得に有利な言語環境を築くために、指さしを用いていること存示唆している。
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