本年度は、これまで明らかにされてこなかった、幼児の指さしの発達に影響する環境要因について検討を行った。まず、幼児の関心を引く対象物が、養育者により幼児の手の届かない位置に置かれ、養育者の手助けなしにその対象物を手に入れることができないという状況が、幼児の指さしの頻度に影響を与えるか検討した。こういった、何らかの理由で幼児の欲する対象物を取ることを阻まれることで、幼児と対象物との間に生じる空間を指示的問題空間という。121人の4ヵ月齢から30ヵ月齢の幼児の親に配布された質問紙のデータを解析した結果、幼児の指さしの頻度は、指示的問題空間のない場合と比較してある場合に高いことが明らかとなった。この結果から、幼児の指さしの発達に、養育者によって指示的問題空間が設けられるかが影響を与える可能性が初めて示された。 次に、幼児に年上のきょうだいが存在し、母と幼児の間でのコミュニケーションの阻害されやすい状況が、幼児の指さしの頻度に影響を与えるか検討した。こういった状況では、幼児は自身をアピールするため指さしを多用するかもしれない。これを検討する前段階として、本年度は年上のきょうだいが母からどれだけ自立しているかが、母と幼児のコミュニケーションの量に影響するか検討した。1歳齢児7名と幼児の年上のきょうだい、そして母親の3者による15分間のおもちゃ遊び場面の観察データを解析した結果、1歳齢児と母親とのコミュニケーションの量は、年上のきょうだいが母から離れている場合に多く、また年上のきょうだいの月齢が高いほど多かった。これらの結果は、幼児の年上のきょうだいが母親から自立しているかが、幼児と母親とのコミュニケーションの生起に影響を与えることを示唆している。これらの結果を踏まえ、年上のきょうだいの自立の度合いが、幼児の指さしの頻度に影響するかを今後検討する。
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