平成21年度は、交付決定を受けて実質的に研究を開始したのが秋以降であり、研究期間は半年強だったが、この間に多数派形成と個人の集団に対する帰属意識との関連を探るための予備実験及び予備郵送調査を実施した。いずれも研究最終年度である平成22年度で実施予定の本実験、本調査のデザインを確定させるためのものだったが、当初の予想以上の知見を得ることができた。特に実験では、被験者が帰属意識を持つ対象の集団を被験者によって無作為に変えた上でリスク下におき、彼らの協力行動に差が出るかどうかを検討した。実験の結果、帰属意識の強さは変わらないにもかかわらず、対象とする集団の種類が異なるだけで、協力率に大きな違いが見られた。予備実験なのでサンプル数などに限りがあり、実験結果の解釈には留保をつける必要があるものの、多数派形成のメカニズムに帰属意識が何らかの影響を及ぼしている可能性が高いことがうかがえる。また、これらに平行してこれまでに実施された全国世論調査のうち、コンピュータを用いて回答者が質問に答える際の回答時間を測定しているデータを用いて、回答者の意思決定パターンと回答時間との関連について分析をおこなった。分析の結果、質問内容にリンクする経験、記憶を有している回答者は、その経験・記憶を回答者が肯定的に捉えていると回答時間が短くなるのに対し、そのような経験・記憶を有していない回答者の場合には、その質問、あるいは質問が想定している内容について否定的に捉えている回答者ほど、回答時間が短くなる傾向があることが確認された。これは、次年度実施予定の眼球運動測定装置を用いた実験を組み合わせることで、被験者に自分の「真の選好」を答えてもらわなくても、彼らの意思決定と選好との関係を分析できる可能性があることを示唆しており、研究計画を進める上で非常に重要な成果であると考えられる。
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