本研究がテーマとしているのは、医学研究における利益相反問題(産学連携により、産業界から大学や医師へ資金が提供され、医師の利害が被験者の利益と対立しうることおよび研究の科学的妥当性をも損ないうるという問題)である。わが国でも産学連携が国家戦略とされる中、利益相反問題への対応が急がれている。アメリカはこの問題で、わが国の20年先を行っていると評されており、本研究は、主にアメリカ法を研究対象とし、わが国のあるべきルールを探ることを目的としている。' 研究方法としては、「あるべきルール」の内容に加えて、「誰が規制するのか」(規制主体)の問題も分析対象としている。本年度は特に、この「規制主体」の問題を中心に分析を進めた。アメリカでは、医学部協会や学会や医師会等の自主団体による規制が相次ぎ、連邦厚生省による厳しい規則制定は見送られた(2004)が、2007年に続いて2009年も比較的強い規制内容の連邦法案(Physician Payments Sunshine Act of 2009)が提出された。この法案が通過すれば、上記のような自主規制(ソフトロー)を中心としたルール体制にとっては大きな変化となる可能性がある。この問題につき、研究成果を下記の雑誌論文としてまとめた。日米の法学者・弁護士・医師からなる研究会(医療の発展と患者の保護をめぐる倫理・法の現代的課題に関する研究(岩田太教授代表.厚生労働科学研究費補助金))に参加し、意見交換を行った。この研究会のメンバーによる共著書を目下執筆中である(「利益相反問題」についての章を担当)。研究の2年目も、引き続き、上記アメリカの連邦法案およびわが国のルール作りを注視しつつ、日米の最新の状況や議論につき文献調査およびインタビュー調査を続け、研究の完成を目指す。
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