本研究は、経験的分析手法に基づいた公法研究を確立するため、アメリカ憲法学・政治学における議論の蓄積に学びながら、その方法論を体系的に整理・検討するとともに、日本への応用を試みるものである。この研究の最大の特色は、これまで分断されてきた法学研究と他の社会科学の領域における最高裁判所研究を架橋しようとしていることである。すなわち、最高裁判所の「果たすべき役割」について、その理想像を「規範的に」議請してきた法学研究と、実際に最高裁判所が「果たしてきた役割」について「経験的な」研究を行ってきた政治学・歴史学などの研究成果を結びつけることによって、新しい公法学の研究方法を開拓しようとしていることである。研究初年度の平成21年度は、アメリカ合衆国の政治学・歴史学における最高裁判所の政策形成能力に関する研究成果を、それが採用する方法論に焦点をあてて検討することを課題とした。その際に、アメリカ合衆国の法科大学院における研究・教育だけではなく、政治学などの研究成果に特に重点を置いて分析を進めた。従来、日米両国の憲法学は、司法審査権を行使する裁判所と、この権限によってコントロールを受ける議会・行政とを対立関係にあるものと想定して議論を進めてきた。しかし、政治学の領域においては、裁判所と他の国家機関との「協働」という視点が提示されている。特に、行動主義的政治学が衰退し新制度主義のような新たな方法論に立脚する研究では、さまざまな国家機関が相互依存的な関係の中で法形成が進められているという見方が有力になりつつある。そこで、最高裁判所による司法審査権の行使が他の国家機関の裁量権との関係で議論するのではなく、むしろ裁判所がいかなる戦略に基づいて司法審査権を行使しているのか、あるいは行使すべきなのかという新たな問題を設定し研究を進めている。
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