本研究の目的は、裁判所が公共政策の決定に関与する際の積極的姿勢と消極的姿勢を分岐させる構造的要因を分析・把握するための手法を検討することにあった。従来の法学研究では、民事訴訟や刑事弁護に関する実証的分析が法社会学を中心に進められてきたが、上記のように裁判所が公共政策の形成に関与する場面については、実証分析が過小であることが指摘されてきた。そこで、アメリカ政治学における裁判所研究の手法を体系的に整理・検討することによって、日本の具体的事例を分析するためのスキームを構築することを目指した。研究を進める中で、アメリカ法学研究に大きな影響を与えつつある政治学の分析手法として、新制度論の台頭が目覚ましい点を指摘することができる。研究計画の段階から、裁判所外部の制度的要因が裁判所の態度に影響を与えることに着目した研究に重点を置くこととしたが、アメリカ法学におけるこのような知見の影響は、特に公法学の領域において、顕著であった。この点は、徐々に日本の萌芽期研究の中でも意識されており、研究業績が散見されるようになってきた。以上のように、当初の予測通り、新制度論の知見を活用した実証分析や公法理論の検討によって、日本の最高裁判所の役割を分析・検討する際にも、裁判所外部の制度的要因に着目することで、これまでと異なる問題の検討が可能になると思われる。本研究の最終段階で下された最高裁大法廷判決も、国会の活動を重要な判断要素としていたことから、今後は日本の文脈でも十分に応用可能な枠組みとなっていると自負している。
|