2010年度は、技術進歩を含むニューケインジアンDGEモデルを構築した。その結果、定常状態において貨幣成長率を技術進歩率と等しくしなければ、産出ギャップが発生することが明らかになった。 それから、上記のようなニューケインジアンDGEモデルを拡張した。プロスペクト理論を援用し、参照点である平均の名目賃金率と自分の名目賃金率の差が効用関数に含まれるような形に修正した。これによって、名目賃金率の下方硬直性を示すことができた。そのうえ、望ましい物価上昇率がゼロを上回ることが確認できた。 上記のニューケインジアンDGEモデルを別の方向へも拡張した。それは、プラス金利モードとゼロ金利モードという二つのモードを持つモデルである。それぞれの定常状態における産出量や物価上昇率について分析を行い、以下の結果を得た。 通常の経済であるプラス金利モードではマネーストック増大率はハイパワードマネー増大率に等しくなる。その定常状態では、ハイパワードマネー増大率を技術進歩率と等しくすることによって、産出ギャップを解消することができる。ゼロ金利モードではマネーストック増大率はハイパワードマネー増大率の影響を全く受けなくなり、常に若干のマイナスとなる。その定常状態では、不可避的にデフレーションと産出ギャップが発生する。長期的なデフレ不況が発生し、通常の金融政策は効力を失うことが明らかになったのである。 今年度はさらに、ゼロ金利で金融政策が効力を失うような既存の貨幣レジーム(制度)に代わる、理想的な貨幣レジームのあり方について検討した。さらに、その理想的なレジームにおいて、ベーシックインカム(基本所得)が持続可能であることを確認し、論文としてまとめた。
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