本研究の課題はコミュニティ自身によるコミュニティの再生産の仕組みとその論理を明らかにしつつ、オルタナティブ開発論を批判的に発展させることである。本年度は初年度ということもあり、事例地におけるデータ収集および他の先行事例の把握に比重をおいてきた。ここでは研究実施計画として提示した3つのポイントに沿って、以下に報告する。まず、事例地の島における共有地の位置付けについてであるが、共有地は全島に分散している。そこで共有地の一筆ごとの詳細なデータを入手し、それをもとに現在まで聞き取りを進めてきた。なかでも、かつて一度は村有になっていたものを字の財産区有というかたちに置きなおした土地があること、および共有地の島民への貸与のあり方が特徴的であることが注目され、調査を進めていくうえでの次なる焦点と考えている。次に、島における私的な所有地の位置付けについてであるが、今年度は島民同士での私有地の貸し借りというところにポイントをあてて聞き取りをおこなった。その結果として、当然ながら個別の事例によりさまざまな様態がみられたものの、とくに興味深い点として、貸与に関して金銭的対価というよりは長期的な関係性を重視する傾向を看取することができた。さらに第3点目、島にやってくる人びとへの島民なりの受入れのあり方についてであるが、一見同じような入り方をしたとしても、その評価はそれぞれで異なることが普通である。その判断基準として、現時点では、広い意味での平等性の感覚が働いていることが観察され、とくに注目される。以上、これらの事実はいずれも、島民たちが土地の利用や開発、発展ということについて判断する際の価値観を反映していると考えられる。来年度はさらにデータ収集をつづけつつ、それら特徴的な点から、コミュニティがもつ価値観の論理としての抽出を進めていきたい。
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