本研究は、コミュニティの再生産の仕組みとその論理を明らかにすることを通じて、地域社会のありうべき発展を展望することを課題にしてきた。本年は研究期間の2年目ということもあり、アウトプットとしての政策論を志向していくうえで、あらためて方法論的な立場を明確にしておく必要があると考え、まずは論文の執筆でそれを確かめておいた。これは、生活環境主義理論の方法論的な独自性とその現在的な意義について、再検討をおこなったものである。 他方、本年度も昨年度に引きつづき、事例地でのフィールドワークを主にしながら、データの蓄積を進めることができた。具体的には、信仰という文化面からは、架橋された島の共有地でおこなわれている祭礼の維持とその変化についての検討を、また、生業面からは、島の土地をめぐる貸し借りや共同労働のあり方の変化についての聞き取りを、そして、人びとの組織化という社会面については、ごく最近、現場コミュニティではこれまでの生活上の関係性をベースにした新たな自治組織をたちあげることで、架橋をめぐって押しよせるようになった巨大な変化に対応しようと試行錯誤をはじめていることに注目した。 コミュニティには伝承と革新の2側面が存在する。以上のようないくつかの角度から事例地の人びとの動きに迫ることによって分かってきたのは、現場の人びとは自身のコミュニティの再生産に際し、伝承と結びついた革新のあり方をこそ模索している、ということである。つまり、地域社会の再生産と発展を考える際には、現在のところ主流になっている人口や経済を指標にしたマクロな議論ばかりではなく、現場の人びとの目線を踏まえたところでの政策論(再生産論)も必要、ということである。フィールドでの知見をもとにした文章化は、来年度を予定している。
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