研究目的ならびに研究実施計画を参照すると、平成21年度には研究課題の二つの柱があった。 一つは、「教育的教授」論と近代学校の関係を、これまでの研究代表者の先行研究をより具体的に掘り下げ明らかにすることにあった。これについては、日本学校教育学会の研究紀要『学校教育研究(第24号)』に掲載した論文「『教育的教授』論と教科指導(学校教授)」にまとめた。そこでは、ヘルバルトが近代学校教育における「教育的教授」論の困難性を認識していたこと、そしてその理由が究明されている。 研究課題のもう一つの柱は、近代学校が抱える問題を認識するばかりでなく、その克服の際にヘルバルトの「教育的教授」論を参照し、それに基づいて試行・実験された学校改革プロジェクトの全体像を復元することにあった。それは、ドイツ・ミュンスターに位置するヴァルトブルク基礎学校を舞台に、1977年-1983年に実施された「ギーフェンベック基礎学校プロジェクト」のことである。研究代表者は、3月に当該学校を訪問・調査して、当時の学校教育構想(「教育的教授」論)が2009年現在でも継続されているという感触を得た。その実証のために、当該プロジェクトの理論的基盤を構想した研究者にインタヴュー調査を実施(Benner教授、Ramseger教授)するとともに、ベルリン自由大学に保管されている当該プロジェクトに関する記録の参照作業の一部を済ませた。 学校プロジェクト全体像の復元、ならびにヘルバルトの「教育的教授」論との関係の詳細については、平成22年度中に研究論文としてまとめる予定となっている。
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