本研究課題は、ポスト冷戦期から21世紀初頭にかけておきた国連システムの質的変動を起点とする中国の国連政策過程を分析し、その特徴抽出をつうじたそのモデル化を全体構想とする。 今年度は、国連開発ディスコース転換/システム変動をめぐって主権超越的スキームの確立が迫られた世界保健機関(WHO)を事例に実証研究を行った。殊に台湾のWHO年次総会へのオブザーバー参加に対する中国の容認について、WHOの設立理念である"Health For All"がいわゆる「ソフトパワー」として機能し、同国の政策決定を促したと結論づけた。拙稿「世界保健機関への参加をめぐる決定要因-台湾のWHAオブザーバー資格取得を事例として-」では、台湾による「国連(加盟を主眼とする)参加」政策を「中国」アクターの内的要因と捉え考察したが、国連開発計画(UNDP)およびWHO側の理念転換はなお検討すべき課題として残された。 こうした課題設定の下、研究計画に則り両機関の駐華代表処において聞き取り調査ならびに資料収集を行った。開発理念の転換を底流とする国連的セーフティネットの普遍性は、介入主義と表裏一体の課題であり主権超越的スキームの確立という課題と直結する。なぜなら、WHO本部による台湾への合法的直接関与は、主権国家システムの下で承認されるからだ。機能主義型のWHOとは対照的に、UNDPは国連における開発理念の生成と転換を導いた機関である。今日の国連開発ディスコースの展開を検証するうえで、理念転換に関する史的考察は不可欠である。開発から発展への"development"の変容と中国の「小康」の連関については、「国連開発ディスコースの中国による受容と政策展開」で論じた。
|