本年度は、まず、日本における先住民族の権利に関する国連宣言の実施状況について、土地権の問題に焦点を当てて考察すべく、アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会で言及されていたイオル再生事業について北海道(平取町及び白老)で現状視察及び平取町町役場、アイヌ民族博物館等でのインタビューをおこなった。その結果、アイヌ側も事業の意義については認めているものの、次のような問題も存在していることが明らかになった。第1に、イオル再生までには長年の年月が必要であるにもかかわらず、単年度予算で実施されているため、途中で予算が打ち切られることへの懸念が存在している。第2に、再生されたイオルのアイヌの利用には地方自治体の許可が必要となっており、土地の利用権は保障されていないことである。次に、本年度は、アフリカにおける先住民族の問題を、土地に対する権利とその根拠に密接にかかわる定義の問題に焦点を当てて研究した。具体的には、国連宣言の起草におけるアフリカ諸国及び先住民族代表が果たした役割とその背景について、準備作業の分析とアフリカ国内における先住民族の権利に関する判例などの分析をおこなった。さらに、アフリカ人権委員会において、国連宣言などの影響を受け、バンジュール憲章の自決権を含む人民の権利が先住民族に適用される事例が出てきていることを指摘し、その報告書や個人通報事例の見解などを分析した。これらの研究成果については、2010年4月3日に関西国際法研究会で報告をおこない、さらなる加筆・修正を経て、2010年度中雑誌掲載をする予定である。
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