第1に、「先住民族の権利に関する国連宣言」の起草過程において、アフリカ諸国が突如、採択延期を要求したことの背景について研究をおこない、中京法学に論文を掲載した。そこでは、ヨーロッパ植民主義との関係で捉えられていた伝統的な先住民族概念が、国連宣言の制定過程で変化し、先住性が必ずしも明らかでないアフリカの少数民族も含めた形で議論がおこなわれるようになったこと、先住性が先住民族の絶対要件ではなくなったことを明らかにし、その上で、先住性を要求せず、土地との精神的及び経済的な結びつきを強調し、先住民族の土地に対する特別な権利を認めることが、権利主体の無制限な拡大につながりうることを指摘した。第2に、先住民族の土地に関する権利について、米州人権裁判所とアフリカ人権委員会(ACHPR)の実行の比較研究をおこない、国際人権法学会第22回研究大会インタレストグループにて報告をおこない、論文を完成させ、投稿作業をおこなっている。そこでは、個人財産権条項に基づく先住民族の土地に対する集団的権利の承認が、米州人権裁判所の実行で確立していること、さらに米州人権裁判所の判例の影響を受けて、ACHPRでも先住民族の土地に対する集団的権利の承認が財産権条項を通じておこなわれるようになったことが明らかにした。その上で、米州人権裁判所は、植民地時代等、遠い過去に剥奪され、現に占有等していない土地の問題については、権利承認の対象を、「当該土地と密接な関係を現在までもち続けている」「伝統的先住民族」に限定しており、2重の縛りをかけることによって権利対象が無制限に拡大することを防止しているのに対して、ACHPRはEndorois事件で過去に不当に剥奪された土地の返還権を認めたが、問題となっている土地を先住民族が占有等していない場合に、どこまで昔の剥奪を継続的侵害と考えうるのかの基準を示しておらず、この点を明確にすることが今後のACHPRの1つの重要な課題となることを指摘した。以上の二つの研究は、いずれも日本では先行研究が存在せず、今後のアイヌ政策を考える上でも重要である。
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