研究概要 |
本年度は、製造業に属する複数の中核技術を保有しない企業を取り上げ、事例研究を中心に行った。研究の焦点は、それらの企業が、既存製品とはどのように異なる製品を開発したのか、また、そのような製品開発を行えたメカニズムを深く洞察することであった。特に、中核技術を保有していないことに着目をして、製品開発プロセスで行われる意思決定・企業行動の深層を考察した。 先行研究では、製品コンセプトが転換した製品の事例分析はこれまでにも行われてきた(例えば、Christensen, 1997 ; Kim and Mauborgne, 2005)。しかし、その転換のメカニズムにまで踏み込んで論じたものは少なかった。 本研究では、中核技術を保有しない企業の製品開発において、中核技術を保有しないことが、企業の意思決定を制約し、過去の製品開発のなかで形成されてきた思考枠組みが現在の製品開発に顕著に表れることが理解できた。そして、資源蓄積を活かそうとするバイアスが強くかかる結果、製品コンセプトが転換するというメカニズムが明らかになった。 本研究の理論的意義や貢献は、製品コンセプトが転換するメカニズムのひとつを解明したことである。本研究では、中核技術を保有しないという分析視角を用いることで、意思決定に制約があるからこそ、既存とは異なる特異な意思決定ができることを明らかにした。 現在、多くの製造企業は、独自性の高い製品を開発することができずに、同質化競争を繰り広げている。特に、技術的資源が乏しい企業にとっては一層厳しい競争環境である。しかし本研究では、新製品開発を行う際に、技術的資源の乏しい企業だからこそ、コンセプトを転換させ、ユニークな製品を開発できることを示唆した。
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