研究概要 |
本年度は、エレクトロニクス産業に属する複数の企業を取り上げ、事例分析を中心に行った。中核技術を保有しない企業の優位性の源泉を探求するなかで、競争優位を構築している企業は、既存製品とは異なる特性を持つ製品を開発することで、新たな市場を獲得していることが分かった。そこで、特に製品コンセプトに着目をして、中核技術を保有しない企業は、どのようなプロセスのもとで、製品コンセプトの転換を行っているのかを考察した。 本研究では、製品コンセプトの転換が、製品たらしめる主要な機能の割り切りによって生じていることに注目した。先行研究では、製品の導入期から成長期にかけては、製品性能が顧客の要求水準に満たないことが多く、その場合の企業の開発努力は、製品性能の向上に向けられることが分かっている(例えば、Christensen, 1997)。ある特定の製品機能を向上させることが産業における競争要因となるのである。 しかし本研究で取り上げた企業は、競争要因となる製品機能の割り切りを行うことで、製品差別化を行っていた。その背後にある論理とは、過去の製品開発のなかで形成されてきた思考枠組みを参照して、既存の製品のあり方を思索し直す結果、企業に特異な製品差別化のやり方を当該製品に当てはめることによって、製品特性を作り変えているというものである。 本研究の理論的意義や貢献は、産業の導入期や成長期初期において、製品コンセプトを転換させるメカニズムを明らかにした点である。先行研究では、開発努力は競争要因である製品機能の開発に集中すると主張されてきたが、本研究では、中核技術を保有しない企業のなかには、その製品機能を割り切って既存とは異なる要因を際だたせることで差別化を行おうとする企業のロジックがあることを示した。
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