本年度は、19世紀後半の連邦議会の議論において「連邦の主権」と「安全」が結び付けられ、中国系移民を排斥する論理となるまでの過程を新しく収集した史料を用いて考察、それに対して移民がどのような論理で対抗運動を起こし、挫折したか考察した。この考察は、とくに2001年アメリカ同時多発テロ事件以後、移民とセキュリティが結び付けられて「問題」視される中で、人種差別や自由の制限がともすると正当化されてきている現代において、重要である。なぜなら、9.11以降の状況が特殊ではないことを明らかにし、現状を打開する上でのヒントを与えてくれるだけでなく、秩序と正義という、移民に限定されないという意味で、より広い問題を具体的に考察する一助となるからだ。 史料収集は、(1)国立国会図書館(東京)(2)National Archives and Records Administration(アメリカ・シアトル)及び(3)サンフランシスコ市立図書館などで行った。(1)では、中国系移民排斥諸法に関してまだ入手していなかった連邦議会の記録を収集して分析し、反対・賛成がそれぞれどのような論理に基づいていたのか、中国人が国家のセキュリティにかかわる問題として構成される過程(セキュリタイゼーション)で、連邦の主権がどのように構成されていったのか、まとめた。(2)では、税関の史料、移民局を収集した。いわゆる不法移民がどのような方法を使ってアメリカへ入り、それがどのように問題にされ、国境管理に対する意識が形成されたのか、分析を開始した。(3)では、San Francisco Chronicle紙やSan Francisco Morning Call紙を中心に、中国人がどのように問題として構成されていったのか、分析した。実証研究と並行して、近年出版された移民とセキュリタイゼーションに関する文献の整理を行った。
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