民主主義と対抗的公共圏の限界の限界について考察するため、前年度に国立国会図書館(東京)、National Archives and Records Administration(アメリカ・シアトル)及びサンフランシスコ市立図書館で収集した史料を引き続き読む作業を行った。また、これまで西部・中西部に限定されてきた視野を広げるため、ニューヨークのChinese Museum in Americaの見学及び東海岸のチャイニーズ・アメリカンに関する資史料を集めた。 今年度の特筆すべき成果としては、論文「潜在的脅威から潜在的市民へ?-移民問題がアメリカへ提起する問題」が挙げられる。本論文では、近年アメリカで増加したメキシコからの「非登録移民」について、これまでチャイニーズ系について蓄積してきた対抗的公共圏とセキュリティに関する知見をもとに分析した。具体的には、アリゾナ州はじめ複数の州で近年通過し、世論でも賛成が反対を上回った合法的な移民排斥とそれに対する反対運動に着目した。 民主主義は平等と結び付けられる概念・理念である。しかし、チャイニーズや非登録移民の事例は、民主主義的に人種主義的な選択がなされたことを意味する。これは、民主主義の陥穽と言えるのではないだろうか。論文では、反対運動の考察により、形式的平等が達成された後でも「民主的に」選択される差別にどのように抵抗し、覆していくことが可能か示唆を得た。本研究の意義は、民主主義の陥穽とそれがどのように是正されうるか示した点にある。
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