研究概要 |
本研究は,知財保護強化のもとで競争政策が技術普及に悪影響を及ぼさないかどうかを,企業のライセンス戦略の観点から明らかにすることである.具体的には,技術普及型(ロイヤルティ方式)と技術独占型(固定料金方式)のライセンス戦略を比較し,市場環境が競争的になるとき企業がどちらの戦略を採るインセンティヴが強くなるかを経済理論モデル分析によって示す. これを示すため,1年目の研究計画に沿って,特許ライセンス分析の先駆的研究であり現在広く使われているKamien & Tauman(1986)の経済モデルを拡張・一般化し,技術普及の経済性が扱える費用関数を導入しつつ,ライセンス戦略と市場競争の関係をとらえるのに適した経済モデルの構築を行った.次いで,「市場が十分に競争的ならば,(企業自身にとって)ロイヤルティ方式(技術普及型)が固定料金方式(技術独占型)より望ましくなり,知財保護政策の下でも技術が普及する」という研究計画の主要定理の証明を行った.この成果の速報的内容については,「11.研究発表」に記載の国際ワークショップにて既に発表し,国内外の専門家から多くのコメントを得た. また,研究の過程で,ライセンス方式(ロイヤルティ方式と固定料金方式)の選択において,リスク・シェアリングの問題が重要であることが判明し,この点について明らかにする研究を追加的に行った.この成果をまとめて国内紀要にて発表したものが,「11.研究発表」に記載の日本語論文である.この論文の成果は,主たる研究目的に必要なライセンス方式比較の議論を精緻化する上で重要である. これらにより,必要なモデルの構築・結果の導出・周辺議論の追加・速報の発表を行い,おおよそ1年目の研究計画通りの成果を達成した.
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