研究概要 |
本研究の目的は、環境アセスメントの制度化過程の分析を通して、社会的意思決定における科学・技術と市民参加の関係について考えることである。環境アセスメント(環境影響評価)とは、開発による生活・自然環境への影響を事前に調査し、評価することを指す。平成21年度には大きく二つの研究を進めた。第一に、環境アセスメントの制度化をめぐる議論の中での科学・技術と市民参加の関係を分析し、3件の学会報告をおこなった。環境アセスメントにおいては科学性を追求するべきか、市民参加を追求するべきか。これら二つのベクトルは相克するものか、両立可能なものか。日本への導入が始まった1970年代から今日に至るまでの歴史的資料や関係者へのインタビューをもとに分析をおこなった。その結果、環境アセスメントにおける科学・技術と市民参加の関係は、二者間の関係ではなく、企業(事業主体、調査主体)や行政をふくめた四者間関係としてとらえる必要があること、これらのセクター間の駆け引きの中で「科学・技術」や「市民参加」の指す中身が変化してきたことが明らかになった。第二に、長良川河口堰問題を事例として、環境アセスメントの制度化にともなう、科学と市民参加の関係の変化について分析した。1960~70年代には学術研究と社会運動の接点は限られていたのに対し、1990年代に入ると、環境運動が協力する研究者を集め、行政と対峙して調査研究を進める「批判的科学ネットワーク」が形成された。こうした変化の背景としては、開発と環境保全に関する調査研究が、環境アセスメントの実践の蓄積や保全生態学の発達を通して、自律した研究領域として成立しつつあったことが挙げられた。以上の分析から、科学・技術と市民参加の関係を論じる際には、単純な図式(トレードオフ,相補的関係など)をあらかじめ想定せず、歴史的文脈の中での多様性を踏まえた議論が求められることが示された。
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